人前で緊張しないコツ

はじめに

人によって程度の差はありますが、人間誰だって緊張します。生まれてから一度も緊張したことが無い人間なんて一人もいません。結婚式でスピーチをしなければいけない時、会社や学会でプレゼンをする時、就職活動などで面接を受ける時…。こんな時は緊張して当たり前です。また、気になる異性と二人きりで話をする時、会社の朝礼などでちょっとしたスピーチをする時、初対面の人と話をする時なんかも緊張する人が多いでしょう。

緊張すること自体は決して悪いことではありません。人間が持って生まれた本能ですから、むしろ全く緊張しなくなったら困ってしまいます。ただ、緊張のあまり自分本来の力を発揮出来なかったり、相手に悪い印象を持たれてしまったりしては残念ですし、そもそも緊張しているところを人に見られるというのは恥ずかしいものです。出来ることなら、あまり緊張しない体質になりたいものです。

ということで、人前で緊張しないためのコツをまとめてみました。何かにつけて緊張してしまい困っている人は、これを読んでいくらかでも楽になってもらえればと思います。

慣れる

緊張しないための一番の方法は場馴れすることです。これに勝るものはありません。人間には学習能力というのがありますから、経験を積めば積むほど何事も上手くこなせるようになります。例えば結婚式のスピーチにしてもプレゼンにしても、一回目や二回目はすごく緊張するでしょうが、五回、十回と経験を積むにしたがって自然と緊張しないようになります。人によって大きく違いますが、大体の人は同じような経験を十回くらい繰り返せば、勝手にコツをつかんで大きな失敗はしないようになるものです。

ただ、結婚式のスピーチは新郎新婦から頼まれない限りは経験することが出来ませんし、プレゼンだって機会がなければ勝手にしゃべるわけにはいきません。つまり経験を積もうにも、そもそもチャンスが少ないという問題があるわけです。

この問題を解決する方法は非常にシンプルで「頼まれたら断らない」という事です。友達なり部下なりに結婚式のスピーチを頼まれた場合、ついつい断りたくなりますが、深く考えずにとりえずOKする習慣を付けましょう。これだけでチャンスはグッと広がります。さらに、友達が結婚するという噂を聞きつけたら、そそくさとその人のところへ行って「友人代表のスピーチは誰がやるの?」と聞いてみましょう。「いやーそれがまだ決まってないんだよね」と言われたら、それはチャンスです。すかさず「じゃあオレがやってやろうか」と言ってあげましょう。スピーチの場数を踏む事が出来る上に、友達に恩を売ったみたいな形になって一石二鳥です。

要するに、常に積極的に行動することが経験を増やすことにつながるわけです。結婚式のスピーチってあんまりやったことが無いからなあ、とか考えてはいけません。そんなのでは、いつまで経っても経験を積むことが出来ず、いざという時に緊張してしまってガチガチのスピーチしか出来ない人になってしまいます。「案ずるより生むが易し」と言います。深く考えずに転がっているチャンスは拾うようにしましょう。

準備をしっかりする

緊張しないために次に重要な事は、とにかく入念に準備をするという事です。「備えあれば憂いなし」の精神で、もうこれ以上やることはないだろうという所まで準備をして下さい。そうすれば、本番で何をやっているか分からないような状態になることは無いでしょう。

スピーチなどのように、自分が一方的に喋ればいい場合には話は簡単です。話す事を考えて原稿を作り、それを何回も読んで覚えこんでしまえばいいだけです。そうしておけば、少なくとも何を喋っていいか分からない状態は回避することが出来ます。後はリハーサルを繰り返し、自分が詰まりやすい所をチェックしておくといいでしょう。最後に誰かにそれを見てもらい、ダメ出しをしてもらえば完璧です。

ちなみに、リハーサルを聴いて貰う人は、あまり親しく無い人の方が好ましいです。仲のいい友だちだと、ついつい慣れ合ってしまい練習にならなかったりします。顔だけ知っている近所のおじさんとか、新幹線でたまたま隣に座ったおばちゃんなどが最適です。

自分が一方的に喋って終わりの場合はこれで準備完了ですが、面接とかプレゼンの場合はもう少し準備が必要です。相手の質問に対して的確に応えなければいけませんので、その対策が必要になってきます。

まずは、相手の質問が何なのかを考えることから始めましょう。就職面接であれば想定質問リストがネットに出回っていますし、プレゼンであれば質問の内容はプレゼンの中身に関係あることに決まっています。まずは考えられる質問を出来るだけたくさんリストアップし、それらに対する回答を考えましょう。そして、それを声に出してみて、上手く相手に伝えられるかを確認しておきます。これをやっておけば、想定外の質問が飛んでくる確率をかなり減らせるので、本番での緊張も多少は和らぐことでしょう。そして、スピーチの場合と同様に、その辺の誰かを掴まえて模擬面接をしてもらいましょう。また、それとは別にイメージトレーニングや脳内シミュレーションを繰り返すのも効果的です。

とにかく、本番での緊張を緩和するために必要なのは、不安材料を出来るだけ無くしておくことです。準備をしっかりやればやるほど本番が楽になりますので、時間の許す限りやって下さい。いくらやってもやり過ぎということはありません。私も過去のプレゼンやスピーチを振り返ってみると、準備をやり過ぎたと思った事は一度もありません。もちろん、準備不足で失敗したことは何回もありますが…。

思ったよりも注目されていないことを知る

しっかりとした準備さえしておけば、本番で必要以上に緊張するということは少なくなるはずです。それでもやっぱり緊張してしまうという人は、次のことを覚えておいて下さい。それは、「あなたが思うほど、他人はあなたに注目していない」ということです。

例えばカラオケが苦手な人は、カラオケで一曲歌うだけですごく緊張すると思います。それは、もしも音程を外してしまったらどうしようとか、他の人は私の歌を聞いてどう思っているんだろうとか、そんな事を考えているのが原因です。確かに、音を外してしまうのは恥ずかしいですし、歌が下手だと思われるのはイヤな事でしょう。

でも、そんな事を心配する必要はないのです。何故なら、他の人はあなたの歌をそんなに真面目に聞いていないからです。カラオケに行った事がある人なら分かるでしょうか、他の人が歌っている時というのは、自分が次に歌う歌を選んでいるか、隣の人と話をしているか、あるいはマイクを持っている人と一緒になって歌っているか、お酒を飲んでいるか、そんなところです。他人の歌をじっと聞いているような奇特な人なんてそうそういるものではありません。つまり、あなたの歌の出来がどうかなんて事は、あなた以外の人はほとんど興味が無いわけです。

これはカラオケに限った事ではありません。結婚式のスピーチにしても、会社や学会でのプレゼンにしても、そんなに真面目に聞いている人なんていません。大体の人は「早く話が終わらないかなぁ」とか思っているものです。なので、別に緊張する必要なんてありません。どうせまともに聞いてないんですから、気楽に話せばそれでいいのです。

失敗しても大したことではないと考える

緊張する原因のひとつとして、もしも失敗したら大変な事になるんじゃないのかという不安があります。絶対に失敗出来ない、というプレッシャーが大きければ大きいほど緊張の度合いが高まるわけです。

でも、冷静になって考えてみて下さい。失敗したらどうなるのでしょうか?実際のところ、大した問題にはならない事がほとんどです。もしあなたがパイロットで、飛行機を着陸させようとしているなら話は別ですが、スピーチや面接でちょっと失敗したくらいでは世の中何も変わりません。スピーチで失敗しても観客の失笑を買うくらいの事でしょうし、就職面接で大失敗したところで、その会社への就職を諦めれば済む話です。

失敗しても大したことが無いのであれば、それを恐れて緊張する必要なんてありません。

自信を持つ

上にも書いたように、不安というものが緊張の原因のひとつです。よって、不安を無くせばいいわけですが、そのためには自信を持つというのが効果的です。ひとつはすでに述べたように、事前準備をしっかりとすることです。しっかり準備をすればするほど本番に向けて自信が持て、それだけ不安も和らぐというものです。これがいわゆる「根拠のある自信」です。それはもちろん重要なのですが、ここで述べるのは「根拠の無い自信」の方です。

例えば友達が何かの舞台に立つ前に緊張した様子でいるとき、「大丈夫、大丈夫、お前なら出来る」とか言ったりします。そうすると言われた方も何となく大丈夫な気がするわけですが、これが根拠の無い自信です。何が大丈夫なのかよく分からなくても、とりあえず大丈夫だと思い込むことで不安が消え、緊張もしなくなるという理屈で、いわゆる自己暗示というやつです。

ゆっくり話す、ゆっくり動く

いざ本番となったときに緊張を和らげる方法として効果的なのが、ゆっくりと動作することです。緊張しているとついつい慌ててしまうことが多いのですが、そこで意識的にゆっくりとした動きをすると、不思議と緊張がほぐれます。定番ですが、深呼吸をするというのがやはり効果的です。ゆっくりと大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出すと、それだけでずいぶんと楽になります。

プレゼンやスピーチの途中であっても、自分が緊張しているなと思ったら深呼吸してしまえばいいと思います。3秒か5秒くらい話が止まりますが、それは全く問題ありません。ゆっくりと会場を見回しながら一回深呼吸するだけで、緊張がすーっと引いていくのが実感出来ると思います。そして、意識的にゆっくりと話し出せば、全然緊張しているようには見えないはずです。

緊張感を楽しむ

ここまで述べたことを実践すれば、必要以上に緊張するということは無くなるはずです。ただし、緊張が全く無くなることはありませんし、また無くなってはいけないものです。人前で何かをするわけですから、それなりの緊張感を持って望むというのは当たり前の事です。緊張が無くなることは無いわけですから、それを上手くコントロールしなければいけません。そのためには「緊張感を楽しむ」という感覚を持つのがいいかと思います。

本番が始まる前や本番の最中に、自分がどのくらい緊張しているのかをチェックしてみて下さい。緊張し過ぎていると感じたら、深呼吸するなりして落ち着く必要があります。逆に全然緊張していないなら、それはそれで問題がありますから、襟を正して緊張感を高めましょう。そして、適度な緊張具合だと思ったら、それを受け入れて、その状況を楽しみましょう。緊張感を楽しむ事が出来るようなれば、緊張を恐れる必要は無くなります。

おわりに

ここまで人前で緊張しない方法について書いてきましたが、最後にひとつ注意があります。ここで書いたのは、あくまでも通常のレベルで緊張しやすい人に当てはまる方法です。緊張に悩んでいる人の中には、医師による治療が必要な人もいますので、そういう方は早いうちにお医者さんに診てもらって下さい。私は医者ではありませんので確かなことは言えませんが、極度の緊張のために日常生活に支障が出る場合には要注意です。例えば、近所のおじさんに挨拶するだけで顔が真っ赤になるとか、満員電車なんか怖くて乗れないとかいった症状の場合は受診が必要かも知れません。パニック障害、社会不安障害、対人恐怖症などに該当するかも知れませんので、念のため心療内科や精神科の先生に相談してみて下さい。

ということで、ここでは緊張しない方法についてまとめました。この内容を実践すれば、不必要に緊張することは無くなるでしょう。ただ一方で、緊張感の無い人生ほどつまらないものもありません。緊張しそうな状況を避けてばかりいては、無味乾燥な人生を送ることにもなりかねません。ぜひ積極的に緊張を追い求め、刺激的な人生を楽しんで下さい。