100マス計算のメリット・デメリット

はじめに

子どもの学力を上げようと100マス計算をやらせている方も多いと思いますが、ネットを見ると結構な割合で100マス計算の弊害について書かれていたりします。全く効果がないとか、むしろ逆効果だとか、そんなことを言われると不安になってしまいます。

そこで、100マス計算について調べたこと、考えたことをまとめてみました。

100マス計算とは

wikipediaによると、100マス計算が生まれたのは昭和40年代、岸本裕史先生の担当するクラスの児童の発想により生まれた、とあります。その後、昭和60年代に陰山英男先生らが百ます計算を授業で活用し話題となったそうです。2003年に陰山先生が出版した『徹底反復百ます計算』が300万部を超えるベストセラーとなり、多くの小中学校で授業や自習に取り入れられるようになった、とのことです。

最近でも色々と本が出ていますし、アプリやゲームなども開発されており、一定の支持を集めていると思われます。

まずは、100マス計算のいいところと悪いところをそれぞれまとめてみましょう。

100マス計算のいいところ

ネットなどでよく言われている100マス計算のメリットは、次のような感じです。

  • 計算が速くなる
  • 楽しい
  • 達成感がある
  • 費用が掛からない
  • 成績が上がる
  • 集中力や記憶力が向上する
  • 計画性が身に付く

では、ひとつずつ見ていきましょう。

計算が速くなる

これは間違いないでしょう。もちろん個人差はありますが、100マス計算をある程度定期的にやっていれば、計算の速度は上がるはずです。ただ、それが学力向上につながるかは別の話ですので、後で改めて考えましょう。

楽しい

これは重要なポイントです。一般的に勉強というのは楽しくなく、どちらかと言えば嫌いという人が多いと思います。宿題でたくさん計算をやらされて、それを楽しいと感じる人は少ないでしょう。その点100マス計算は、ゲーム感覚で取り組むことができ、タイムが上がっていくのもわかりやすいため、楽しみながら能力を身に付けるにはうってつけです。

達成感がある

勉強において、達成感を感じることは非常に重要です。自分の能力が上がっていることが実感できれば、普通の人間は楽しくてやる気も出てきます。逆に、結構がんばったのに結果が出なかったということがあると、その後やる気を失ってしまうものです。その点100マス計算は、タイムという形で結果が見えやすいので、成功体験を得られやすいと言えるでしょう。

費用が掛からない

そろばんや公文に通わせようとすると、月々結構な出費を覚悟しなければなりませんが、100マス計算だったらほとんど費用が掛かりません。本を買ってもたかが知れていますし、何だったらネットで検索すれば問題集を無料でダウンロードさせてくれるサイトが見つかりますので、印刷代だけで済みます。これは大きなメリットと言えるでしょう。

成績が上がる

これは議論があるところですが、少なくとも小学校や中学校の算数、数学の成績は上がるでしょう。小中学校では、試験における計算の比重が大きいため、計算の速い子はかなり有利です。計算が速ければ、その分検算の時間が増えるので、ケアレスミスが減ります。また、数学以外の教科でもちょっとした計算が必要になることは結構ありますので、純粋に計算が速くなった分だけテストの点数は良くなると思います。

集中力や記憶力が向上する

サイトによっては、集中力や記憶力が向上すると書いてあります。集中力については結構分かる気がします。一般的に小さい子は何かに集中することが苦手ですので、計算に集中するという経験は役に立ちそうです。何十分も集中するのは難しくても、100マス計算を一回やるくらいの時間であれば集中しやすいです。記憶力についてはちょっと分かりません。直接的な因果関係は無いようにも思いますが、集中力などが付いたことによって副次的に記憶力もアップするということはあるでしょう。

計画性が身に付く

計画性についてふれているサイトもあります。100マス計算ではタイムによって結果がすぐに分かりますので、それを見て自分の計算方法を反省し改善点を考えるということができます。これはいわゆるPDCAサイクルです。こうした経験から、様々な問題に対して自分で解決策を考える習慣が身に付けば計画性も上がるでしょう。

他にも色々と言われていますが、100マス計算の利点は概ねこのような感じです。次に、悪い点について見てみましょう。

100マス計算の悪いところ

  • 字が汚くなる
  • 計算が速くなるだけ
  • じっくり考えられなくなる
  • 無駄な負担が多い
  • 記録が頭打ちになる

字が汚くなる

よく見るのは、100マス計算をやると字が汚くなる、という意見です。タイムを上げようとして、なるべく速く字を書きますので、必然的に汚い字を書くことになります。これがくせになってしまうと、綺麗な字が書けなくなるかも知れません。私はもともと字が汚いので分かりませんが、字が上手い人は、いくら100マス計算をやろうが、丁寧に書けば上手い字が書けるような気もします。

計算が速くなるだけ

メリットの方で集中力とか計画性とかをあげましたが、これはそれらを否定する立場の意見です。確かに明確な因果関係は分かりませんので、もしかしたらそういった効果はないのかも知れません。

じっくり考えられなくなる

この意見もよく見られます。100マス計算では、数字を見て条件反射的に答えを書きますので、考えるというプロセスが飛んでしまうという意見です。確かにひとつひとつの計算をじっくり考えていてはタイムが上がりませんので、答えを覚えて反射的にそれを書く訓練をすることになります。言ってみれば単純作業の繰り返しですので、何も考えていなくても出来るようになります。ただ、それがそのまま考えない習慣につながるとは思えません。

無駄な負担が多い

100マス計算には無駄な負担が多いという指摘もあります。計算している時間よりも書いている時間の方が長いですので、計算力を上げたいのであれば書く作業は無駄とも言えます。また、計算する数字が離れた位置に書いているのでそれを見るのも無駄です。それから、答えがあっているかを確認する作業もちゃんとやろうとすると結構大変です。これらは確かに無駄な負担と言えます。純粋に計算力を上げるのであれば、もっと効率的な方法もあるでしょう。

記録が頭打ちになる

上の無駄な負担に関連しますが、ある程度計算が速くなると、記録が頭打ちになってしまいます。つまり、答えを書く時間がネックになるということです。これは確かにその通りで、記録が伸びなくなればやる気も失ってしまうかも知れません。

計算が速いのはいいことか?

ここまで、100マス計算のいいところ、悪いところについてまとめてきました。結局、いいところも悪いところもあるので、状況に応じて適切に利用しましょうという話なのですが、それだと身も蓋もないので、私の経験をもとに少し考えていきます。

私は小学校3年生くらいからそろばん教室に通っていたこともあり、計算が得意でした。そろばんの腕前はそこそこでしたが、暗算はかなりできる方だったと思います。

ですので、小学校の算数のテストで悩んだ記憶はありません。問題を見た瞬間に答えが分かる感じで、いつも一番最初に終わり全部100点でした。中学に入っても似たような感じで、成績はずっとクラスで一番でした。

周りの人より暗記力なんかもあった気がしますので、これが全部そろばんのおかげということも無いでしょうが、みんなが60分使っても全部解けないような問題を、10分とか20分とかで解き終わっていたのは計算力の影響が大きいと思います。

大学などで周りの人達を見てみても、計算が速い人は頭がよく、頭がいい人は計算が速いという傾向が強いように思いました。理数系の分野にいたからというのもありますが、全般的な能力と計算力との間には、かなり強い関係があると思っています。

鶏と卵

ただし、鶏が先か、卵が先かという問題はあります。

つまり、計算力が高いから能力が高くなったのか、能力が高いから計算力が強くなったのかは分かりません。因果関係は不明ということです。

よって、100マス計算をやれば学力が上がるかどうかは何とも言えません。もちろん、そろばんや公文についても同じことが言えます。

ただ、100マス計算をやれば、少なくとも計算力は身に付きますので、小中学校の理数系科目の成績に関してはアップすると思われます。他にやることがないのであれば、やって損はありません。

100マス計算で身に付くこと

私は最近になって100マス計算をやったのですが、初めてやったときのタイムは1分くらいでした。その後、何回か繰り返すうちに少しコツを掴んで10秒くらいは速くなりましたが、その後は全然変わりません。

所詮は1桁の計算ですので、答えは見た瞬間に分かります。タイムに影響を与えているのは、答えを書く時間と、次の数字を見る時間です。なるべく速く答えを書くことと、書きながら次の数字を見ることが重要と思います。

このレベルであれば、これ以上100マス計算をやったところで、計算力は身に付きません。数字を書きながら次の数字を見るという、あまり役に立ちそうにない能力が身に付くだけです。

きちんとした統計資料がありませんので確かなことは言えませんが、小学生であっても何週間か練習すればクラスで何人かはこのレベルになると思います。そうなってしまえば、その後の100マス計算にはあまりメリットが無いと考えられます。

目標タイムをどの辺に設定するのかは、その人の状況次第ではありますが、年齢に関わらず1分30秒くらいがひとつの目安とされています。このくらいになったら、その後はあまり効果が期待できないので、そろばんの練習とか、別のことをやった方がいいのかも知れません。逆に、2分も3分もかかっているようであれば、100マス計算を繰り返すことで計算力がアップするでしょう。

おわりに

ここでは、100マス計算のメリットとデメリットについて考えました。

結論としては、いいところも悪いところもあるので、状況に応じて適切に練習しましょう、というところです。

1分30秒以上かかる状態なら、練習すれば計算力が向上するでしょう。それが学力の向上につながるかは分かりませんが、致命的な欠点はないので、試しにやってみても損はありません。

1分を切るようなレベルであれば、それ以上の計算力向上は見込めないでしょう。2桁や3桁の暗算を練習するとか、そろばんを習ってみるとか、他のことをやった方がいいでしょう。

当たり前ですが、100マス計算は万能ではありません。これだけやっていれば学力が上がるわけではありませんので、そこは気を付けましょう。

計算が苦手な子が、楽しみながら計算力を身に付けるにはとてもいいツールだと思いますので、一度試してみる価値はあります。