武田薬品工業のシャイアー買収の評価

はじめに

2018年12月5日、武田薬品工業の臨時株主総会でシャイアー買収が正式に決定しました。日本企業による過去最大のM&Aでもありますが、創業家を中心とした「武田薬品の将来を考える会」が買収反対に回ったことからも世間の注目を浴びています。

ここではこの買収について簡単にまとめます。

武田薬品工業とは

日本最大の医薬品メーカー。東証1部上場、証券コードは4502。医薬品売上は日本では首位、世界では20位くらい。長年創業家が実権を握ってきたが、2003年に長谷川氏が、2014年にはウェーバー氏が社長に就任。近年M&Aに積極的。

1781年 武田長兵衛氏が開業
1993年 武田国男氏が社長就任
2003年 長谷川閑史氏が社長就任
2014年 クリストフ・ウェーバー氏が社長就任

買収の概要

買収スキームは、現金約3兆円と武田の新株でシャイアーの全株を買い取る形とのことです。買収額は約460億ポンド(7兆円弱)で、約3兆円を銀行融資や社債発行で調達し、残りの約4兆円を武田の新株発行で賄うことになります。具体的には、シャイアー株1株当たり49.01ポンド、そのうち武田の新株0.839株という条件のようです。

武田薬品もシャイアーも売上は世界で20位くらいなのですが、今回の買収によって世界で8位くらいの売上を示すいわゆるメガファーマの仲間入りをします。

買収によって借金がいっぱいになるわけですが、その対策として、

最大100億ドル(約1兆1000億円)の非コア資産を売却して財務レバレッジを下げる
全従業員の6~7%をリストラする

という話があがっています。

ちなみに、武田薬品工業といえば高配当で有名かと思いますが、180円の年間配当は今後も維持する方針だそうです。

買収のメリット

武田薬品にとって最も大きいメリットは、規模が大きくなるということです。製薬には10年から15年程度の時間と、百億円単位のお金がかかりますので、ある程度の規模が無いと競争力が保てません。

また、せっかく新薬を開発したとしても、10年もすれば特許が切れジェネリック医薬品にシェアを奪われてしまいますので、常に新しい薬を開発し続ける必要があります。つまりパイプラインの充実が重要で、そのためには規模が大きいほうが有利ということです。

もちろん、研究開発やその他の面での統合効果も見込めます。具体的には不明ですが、年間1,000億円レベルの効果を見込んでいるとのことです。

買収のデメリット

一方デメリットとしては、財務体質の悪化があげられます。武田薬品は10年くらい前までは実質無借金でキャッシュリッチな会社だったのですが、2008年に米ミレニアム(7200億円)、2011年にスイス・ナイコメッド(1兆1000億円)、2017年に米アリアド(6200億円)を買収し、手元資金を使い果たした状態です。今回新たに3兆円の借金をし、シャイアーの借金約2兆円を引き継ぐため有利子負債は6兆円程度になる見込みです。

また、新株を発行するため株式の希薄化が起こります。おそらく、現状の発行済み株式数とほぼ同数の株式を発行しますので、全体に対する持ち分としては半分くらいになります。ただ、会社の規模自体が二倍程度になるので、それを考えれば損得なしです。

他のデメリットとしては、創業家との関係悪化、株式の海外流出、統合コストの負担などがあげられます。詳しくは「武田薬品の将来を考える会」のサイトをご覧頂ければと思います。感情が入ってしまっている嫌いはありますが、根拠のないことは書かれていないようです。

評価

一見メリットよりもデメリットの方が大きいように思いますが、製薬会社としては規模の拡大は最近のトレンドであり避けることは出来ません。

AIの発達により、今後の製薬の在り方も大きく変わる可能性がありますが、現状の大手製薬会社は規模を拡大し、パイプラインを充実させるのが当面一番いい戦略と思います。実際、世界のメガファーマもそう考えているみたいです。

ですので、プレミアムが大きすぎるとの懸念はあるものの、今回の買収は武田薬品工業にとっていい判断であると評価します。というか、10年以上前から分かっていたことですので、遅きに失した感もあります。

ステークホルダーの損得を考えると、まず武田薬品の既存株主にとっては大きなマイナスです。買収発表から今日までに3割程度株価が下がっていますので、これは間違いありません。一方、シャイアーの株価は2割程度上昇していますので、既存株主にとってはプラスでした。

他に得する人は、武田薬品に資金を貸し出すことになるJPモルガン、三井住友、三菱UFJの3銀行。金利は低いでしょうが、金額が大きいので割といい儲けになります。

また、双方に財務アドバイザーとして協力した、野村証券、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの投資銀行も100億円単位の報酬をもらえることになると思われます。

それから、M&Aアービトラージを手がけるヘッジファンドも結構儲ったみたいです。「武田薬品の将来を考える会」の反対があったとはいえ、株式数で言えばたかだか数%程度。買収決定はほぼ確実だったにも関わらず、株主総会当日まで10%以上の鞘があったのはおいしかったはずです。

武田薬品工業の今後

前述の通り、多少の問題はあるものの今回の買収は方向的には合っていると考えます。今後の武田薬品の業績は、大きな新薬が出るかどうかにかかっています。もし今後数年で結果が出てこないようだと、パイプラインを取り繕うためにさらなるM&Aが必要になってきますが、きっと大丈夫でしょう。根拠はあまりないですが…。

薬の開発はギャンブル的な性質が強く予測がつきません。ひとつの化合物を見つけるだけで業績が何千億円も違ってくる世界です。株主としては、黙ってホールドし、いいニュースが届くのを待つだけです。

ちなみに、私はホルダーではありませんが、現状の株価(3,800円)であれば買いと思います。ただ、目先あと何割かは下がる気もするので落ち着くまで様子見という感じです。